山口あき子
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【聞くだけでわかる】介護保険申請からサービス利用までの流れ
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介護保険がどのように利用されるのか、ある一人の高齢者が、介護保険の申請をし、要介護認定を受け、居宅介護支援(ケアマネジメント)を居宅介護支援事業者に依頼し、居宅サービス計画を立て、介護サービスを利用するまでを、ストーリーにしてみました。このストーリーを読むことで、あなたも介護保険を利用する事や、介護支援専門員として行動することを体験できます。

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山口あき子
このストーリーはプロの声優による音声でもお聞きいただけます

第1節 介護保険要介護認定申請

■ Aリハビリテーション病院 ■

山田春男(83歳)が入院している。

脳梗塞後遺症(左片麻痺)、リハビリ目的で、この病院に転院2カ月半が経過。

ある日、主治医の菊池から、妻奈津とともに、呼び出され、来週退院できると、言い渡された。

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■ 妻 奈津、市役所の窓口を訪れる ■

奈津は、住所地の市役所の窓口を訪れた。

[窓口の職員の話]

介護保険のサービスを利用できる人

1.65歳以上の人(第1号被保険者)で、介護が必要であると認定された人

2.40歳以上65歳未満の医療保険に加入している人(第2号被保険者)で、特定疾病により、介護が必要であると認定された人

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特定(とくてい)疾病(しっぺい)とは
・がん 医師が一般に認めている医学的知見に基づき、回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る
・関節リウマチ (かんせつりうまち)
・筋萎縮性側索硬化症 (きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)
・後縦靭帯骨化症 (こうじゅうじんたいこっかしょう)
・骨折を伴う骨粗鬆症 (こっせつをともなうこつそしょうしょう)
・初老期における認知症 (しょろうきにおけるにんちしょう)
・進行性核上性麻痺 (しんこうせいかくじょうせいまひ)、
・大脳皮質基底核変性症 (だいのうひしつきていかくへんせいしょう)、及びパーキンソン病
・脊髄小脳変性症 (せきずいしょうのうへんせいしょう)
・脊柱管狭窄症 (せきちゅうかんきょうさくしょう)
・早老症 (そうろうしょう)
・多系統萎縮症 (たけいとういしゅくしょう)
・糖尿病性神経障害 (とうにょうびょうせいしんけいしょうがい)、
・糖尿病性腎症 (とうにょうびょうせいじんしょう)、及び糖尿病性網膜症 (とうにょうびょうせいもうまくしょう)
・脳血管疾患 (のうけっかんしっかん)
・閉塞性動脈硬化症 (へいそくせいどうみゃくこうかしょう)
・慢性閉塞性肺疾患 (まんせいへいそくせいはいしっかん)
・両側の膝関節(しつかんせつ)又は股関節(こかんせつ)に著しい変形を伴う、変形性関節症 (へんけいせいかんせつしょう)

■ 申請から要介護認定までの流れ ■

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■ 春男の退院 ■

妻奈津は、娘の秋子に、春男が退院するので、しばらく手伝いに来てほしいと連絡した。

退院日当日
春男は、福祉タクシーを利用して、家に帰ってきた。

春男は家に帰ることができて嬉しかったが、想像していたよりもずっと不自由な生活に、愕然とする。

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■ 認定調査から要介護認定まで ■

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第2節 居宅サービス計画の依頼

■ 山田家に春男の介護保険被保険者証が届く ■

*被保険者証の内容
・要介護状態区分等 要介護3
・認定年月日 平成28年4月22日
・認定の有効期間 平成28年4月1日~平成28年9月30日
・区分支給限度基準額 26931単位

※認定の有効期間は原則として、新規・区分変更の場合は6カ月(設定可能な有効期間は3~12カ月)、更新の場合は6又は12カ月(設定可能な有効期間は3~24カ月)

・春男は何事にも消極的になっていた。

・秋子は春男に、居宅介護支援事業者を決めなければならない旨を伝えたが、どこでもよいとの返事。

・秋子と奈津は、相談して、一番家に近い、「ひまわり居宅介護支援事業所」に依頼することを決めた。

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■ ひまわり居宅介護支援事業所 ■

・所長の市川(53歳)をはじめ、女性ばかり、4人の介護支援専門員(ケアマネジャー)が在籍している。

・事務所内では、市川と新人介護支援専門員、横山(35歳)が事務処理をしていた。

・電話で秋子から、春男の居宅サービス計画作成の依頼があり、受けることになる。(居宅介護支援事業者は、サービス提供の依頼があったら、正当な理由がない限り、断ってはならない。)

・春男の担当は、横山に決まる。

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■ 奈津と秋子が事務所に相談にやってきた ■

・インテーク(受理面接)
クライアントには、受容的態度と雰囲気を心がける。
傾聴の技術を使う。(オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンを、効果的に使う。)

・家族の希望は、リハビリ、介護用ベッド(特殊寝台)・車いすのレンタル、ポータブルトイレの購入。

・明日山田宅を訪問して、本人と契約の意思を確認

・介護支援サービスの開始時から、記録をする。

■ ひまわり居宅介護支援事業所 ■

朝のミーティング

・渡辺介護支援専門員から、Ⅰさんという利用者が、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)への入所が決まり、契約終了となる報告があった。

・横山から、山田春男のケースを報告した。昨日のインテークの内容から、早急に介護サービスが必要なケースと思われた。

■ 訪問前の準備 その1 ■

・訪問時に持参するもの

・居宅介護支援事業者がサービスを利用者に提供する際の
契約書

・居宅サービス計画作成依頼届出書

・課題分析票

・介護支援専門員証(都道府県知事が交付、有効期間は5年、
介護支援専門員更新研修を修了することで、更新可能。)

■ 訪問前の準備 その2の1 ■

・介護支援専門員の基本姿勢

・どの利用者に対しても、公平、中立の態度を貫く事

・利用者の人権の尊重

・利用者の主体性を引き出し、自己決定を尊重する

・個人情報の保護(秘密保持)

■ 訪問前の準備 その2の2 ■

・介護支援専門員の基本視点

[自立支援]

・利用者が自分の意思で自分らしく、地域の中で暮らせることを支援する。

・自立した生活を実現するために、具体的に支援を行う。

・ノーマライゼイション

■ 訪問前の準備 その2の3 ■

・クオリティオブライフ(QOL)

・生涯発達

※横山は、新規のケースを訪問する前には、いつもこのメモを確認していた。

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第3節 山田宅を訪問する

■ 山田宅の様子 ■

・駅に近い住宅街の一角にある、一戸建て。

・家の周りも中も、比較的きれいにしている。

・玄関の上がりかまちの段差が高め。

・家の中に入ると、微かにコーヒーの香り。

・一階、居間の隣の和室が、春男の部屋。

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■ 利用者本人と面接 ■

1.支援専門員が提供するサービス内容の説明

・利用者の心身の状態等とニーズを把握し、課題分析(アセスメント)を行う。

・課題分析に基づき、居宅サービス計画(ケアプラン)原案を作成し、本人、家族の同意を得る。

・サービス担当者会議を開催する。
本人、家族、利用予定のサービス事業者に集まってもらい、居宅サービス計画原案をもとに、具体的に必要なサービスを検討し、居宅サービス計画を決定する。

・正式な居宅サービス計画書を交付し、同意を得て、サービスが開始される。

2.サービスの種類と内容の説明

居宅サービスの種類(都道府県の指定・監督のもの)
●訪問系サービス
・訪問介護(ホームヘルプサービス)
・訪問入浴介護・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・居宅療養管理指導
●通所系サービス
・通所介護(デイサービス)
・通所リハビリテーション
●短期入所系サービス
・短期入所生活介護(ショートステイ)
・短期入所療養介護
●その他
・特定施設入居者生活介護
・特定福祉用具販売
・福祉用具貸与

1)ひまわり居宅介護支援事業所の運営規定の概要と重要事項を説明し、居宅介護支援サービスを提供する契約に同意することを確認、署名、捺印をもらう。

2)介護サービスの費用に関する説明を行う。(利用者の自己負担は原則1割。ただし、居宅介護支援事業者に対する費用は、保険から10割給付のため、利用者の自己負担はない)

3)個人情報保護法に関する説明と、サービス事業者間において、必要最低限の個人情報をやりとりすることに対して同意を得る。

4)介護保険被保険者証の確認

5)居宅サービス計画作成依頼届出書に記入してもらう。
(保険者への届出が必要)

6)利用者本人、家族から、ニーズを把握するため、状況を聞く。
(病状の把握、ADL,IADLの把握、フォーマルな資源、インフォーマルな資源の把握、等々)

7)介護保険以外の社会資源の利用状況の把握
紙おむつの支給等

8)居宅サービス計画作成依頼届出書の提出をしてもらう。
(被保険者証を添えて提出)

■ 春男と家族の話 ■

・春男は家での生活が思ったより不自由だったので、ふさぎがちで、寝ている事が多い。(昼夜逆転気味)

・自分でトイレへ行けるなど、室内を移動できるようになりたい。

・入浴をしたい。

・春男が現在の生活の中で、最も楽しみにしていることは、毎朝、妻が煎れてくれる一杯のコーヒーを飲むこと。

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第4節 居宅サービス計画の作成

■ 居宅サービス原案の作成 ■

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◇長期目標と短期目標の設定

1)長期目標(ここでは、大筋を示してあります。)
・自分でトイレへ行けるなど、室内を自由に移動することが可能になり、生活に意欲的になれるように、支援していく。
・介護サービスを入れることで、生活リズムを調え、朝、コーヒーを飲む日課を大切にしながら、メリハリのある生活ができるように、支援していく。
・心身の健康管理を受け、身体を清潔に保つことで、病状を安定させ、安心して、気持ちよく過ごせるようにする。
・介護者の負担軽減

2)短期目標・・・省略

◇目標達成のためにどの介護サービス利用するかを検討

・具体的に利用する予定のサービス
訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、特殊寝台・車いすのレンタル、ポータブルトイレ・シャワーチェアの購入(居宅療養管理指導・・・給付管理対象外)

■ 翌日、横山は山田宅を訪問 ■

・居宅サービス計画原案に、同意を得る。

・利用者の自己負担額の説明
要介護3の1カ月の支給限度額は、26931単位
この居宅サービス計画は、支給限度額内に収まっている。
自己負担額は、総費用の1割。

・特定福祉用具の購入
ポータブルトイレ、シャワーチェア等の排泄、入浴関連用具は、
1年間に10万円を上限に支給。自己負担額は1割。

■ サービス担当者会議の調整 ■

・居宅サービス事業者へ、サービス提供を依頼
サービス事業者を選択する際も、中立性を守る。

・サービス担当者会議を開催するための日程調整
この会議の主催者は、介護支援専門員。本人、家族、サービス事業者、関係機関に集まってもらい、居宅サービス計画を練り上げていく場である。

第5節 サービス担当者会議

・山田家において、春男、奈津、秋子、主治医の鈴木医師をはじめ、サービス事業者が一同に集まった。

・居宅サービス原案をもとに、具体的にサービス内容を検討していった。

・利用者本人、家族からの発言

・各サービス事業者、関係者からの発言、具体的な提案

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・居宅サービス計画の内容を参加者全員で確認

・会議終了後、サービス担当者会議の要点を作成

第6節 居宅サービス計画完成 山田宅を訪問する

・サービス担当者会議での検討内容を反映し、居宅サービス計画を作成して交付。(原案との相違点を確認)

・利用者本人、家族に同意を得て、サービス利用票、サービス利用票別表を作成し、利用者に交付する。その際、利用者から、承認印をもらう。

・各サービス事業者へ、居宅サービス計画書、サービス提供票・サービス提供票別表を送る。

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・居宅サービス計画に基づき、介護サービスが開始される。

第7節 モニタリング

その1

・モニタリングは特段の事情がない限り、少なくとも1カ月に1回、利用者宅を訪問して行う。

・春男と奈津から、介護サービスの様子、希望等を聞いた。

・春男から、ヘルパーを男性に変えてほしいと希望があった → ヘルパー事業所と調整していく。

・おおむね介護サービスは順調に行われており、春男も奈津も満足している。

・モニタリングの結果を記録する。

その2

モニタリングの目的は

1.居宅サービス計画の実施状況の確認
2.居宅サービス計画の援助目標の達成度の確認
3.個々のサービス等の内容が適切か否かの確認
4.居宅サービス計画を変更すべき新たな生活課題があるかの確認

モニタリングを行った結果、利用者の生活課題の変化、新たな生活課題が発生した場合は、再課題分析を行う。

第8節 給付管理業務

・給付管理業務とは、先月1カ月の実際に行われたサービスの利用状況を、利用者とサービス事業者に確認し、給付管理票を作成する。国民健康保険団体連合会(国保連)に10日までに提出する。

・なお、居宅介護支援事業者は、給付管理票とともに、居宅介護サービス計画費を請求する。

山口あき子
このストーリーはプロの声優による音声でもお聞きいただけます

終わり
(なお、このストーリーは、フィクションです。)

音声ストーリのテキストはこちら

介護保険申請からサービス利用までの流れについてです。
この章では、介護保険がどのように利用されるのか、ある一人の高齢者が、介護保険の申請をし、要介護認定を受け、居宅介護支援(ケアマネジメント)を居宅介護支援事業者に依頼し、居宅サービス計画を立て、介護サービスを利用するまでを、ストーリーにしてみました。
このストーリーを読むことで、あなたも介護保険を利用する事や、介護支援専門員として行動することを体験できます。

主な登場人物です。
山田春男、83歳、この人が利用者さんです。
山田奈津、75歳、山田さんの奥さんです。
佐藤明子、50歳、山田さんの娘さんです。
横山ユキ、35歳、この横山さんが主人公のケアマネさんです。
市川ミサコ、53歳、横山ケアマネさんの上司です。
では、ストーリーを始めていきます。

●第1節 介護保険要介護認定申請

ここは東京都内某所にあるAリハビリ病院である。
山田春男は3ヶ月半前に脳梗塞を発症し、自宅近くの救急病院へ運ばれた。
1ヶ月後、左片麻痺が残ったが、症状が安定したとして、このリハビリ病院へ転院してきたのである。
その後、熱心にリハビリに取り組んでいた。
ある日、春男は、妻・奈津ともに、主治医の菊池に呼ばれて話を聞いた。
そこで、1週間後に退院になると言われた。
春男は家に帰れるのが嬉しかったが、妻・奈津には不安があった。
夫と2人暮らし、今までは夫が元気だったので、老夫婦の2人暮らしでも不自由はなかったが、夫が障害のある体になって、自分だけで本当に世話ができるのかと・・。

そう思っていたところに病棟師長から
「介護保険の申請はしましたか?」 と言われた。
初めは何の事かわからなかったが、病棟師長によれば、介護保険を申請して要介護認定を受ければ、ヘルパーやリハビリ、デイサービス、介護ベッドや、車椅子のレンタルなどの介護サービスが利用できるというのだ。
奈津は師長の説明は全部理解できなかったが、とにかく介護保険を申請しなくちゃと思った。
翌日、早速師長に教わった通り、住所地の市役所へ行って介護保険の申請をしようと窓口を訪れた。
「あのー、介護保険の申請のことなんですけど・・・」
窓口の職員に恐る恐る声をかけた。

「はい、こちらの窓口で結構ですよ。どなたの申請ですか?ご主人の申請かな?」
明るく親切そうな男性職員の対応に、奈津は少しほっとして、椅子に座り、話を始めた。
「主人が1週間後にリハビリ病院を退院することになりまして、主人と2人暮らしで、私1人で主人の介護ができるか不安で・・介護保険を申請するとヘルパーさんが来てくれたり、車椅子が借りられると聞いたので・・」
ここで話すと、男性職員は、こう聞いてきた。

「ご主人は何歳ですか?ふむふむ・・83歳・・なら介護保険の申請ができます。」
「介護保険のサービスを利用できる人は65歳以上の人、第1号被保険者と言いますが、その第1号被保険者で、介護が必要であると認定された人と、40歳以上から65歳未満の医療保険に加入している人、これを第2号被保険者といいますがこの第2号被保険者で特定疾病により介護が必要であると認定された人ですから。」

「では今日はこの要介護認定申請書に記入してください。この申請は基本的にご本人が行い、ご家族でも申請できます。今日は奥さんに申請用紙を書いてもらいますね。」
「えー、今日の日付は4月1日ですので4月1日と書いてください。
ご本人やご家族以外でも、地域包括支援センターや指定居宅介護支援事業者など、申請の代行ができますよ。」
職員に言われるまま、奈津は書類に記入をした。

そこにに主治医の欄があったので、Aリハビリ病院の菊池医師の名前を書いた。
奈津が申請書を書き終わると、男性職員はこう説明した。
「では、介護保険のサービスを受けられるまでの手順を説明しますね

今日申請してもらいましたが、後日、市の職員が山田さんの心身の状態、ADLや問題行動などについて、ご本人と家族の方に聞き取り調査をしに、お宅に訪問します。これが認定調査といわれるものです。
これは全国共通の調査票に基づき基本調査、概況調査、特記事項の記入を行います。

調査票の結果がコンピューターで処理されて、要介護認定等基準時間が算出されます。これを一次判定と言います。
それに加えて、特記事項と主治医の先生にお願いして記入してもらう主治医意見書、この3つをもとに、介護認定審査会が開かれ、要介護度、要介護状態区分ですね、これが決定されます。ちなみに介護認定審査会の審査は二次判定と言われています。
申請から認定が下りるまでの期間は、30日以内です。

では、市の調査員から後日、訪問調査の日程を決めるための連絡がありますから、お願いしますね。」
まぁよくしゃべる人だなと、奈津は、あっけにとられて説明を聞いていた。
奈津は、その男性職員が丁寧に説明してくれたが、ほとんど理解できなかった。
後日、調査員から訪問するために、連絡あるということだけは理解し、家路についた。

その夜、奈津は隣県に住む、娘の佐藤明子に電話をした。
「秋子、私、お母さんよ。実は来週の木曜日にお父さんが退院することになったの。
それで私1人でお父さんの介護するのは大変だから、しばらく家に手伝いに来てくれない。」

娘の秋子は、子供はもう、社会人と大学生で、手が離れている。
菓子店でパートをしていたが、パートの方も、ちょうど契約が切れる時期である

夫・修二も、家を空けることを理解してくれるに違いないと思い、こう言った。
「いいわよ。じゃあ私は、水曜日にそっちに行くから、木曜日は一緒に病院へ、お父さんを迎えに行くわ。」
「悪いねえ。修二さんよろしく言ってね。」
「うん、わかった!じゃあね、お母さん。」

●春男の退院

次の週の木曜日、春男は、福祉タクシーを利用し、家に戻ってきた。
春男は片麻痺があり、1人では歩行できない
福祉タクシーのドライバーが、春男をおぶってベッドまで運んでくれた。
妻の奈津が着替えを手伝い、パジャマに着替えて、久しぶりに自分のベッドに横になった。

春男は、
「ああやっぱり我が家はいいなー。」
と思わず一言漏らした。
しかし、いざトイレに行きたくても1人では行けない
病院のベッドは、ベッド柵や介助バーがあり、それにつかまって起き上がることができたが、家のベッドには掴まるところもない。

病院ではポータブルトイレがベッド脇に置いてあったが、家にはそれもない。
トイレに行く度に秋子を呼んで、トイレまで抱えて連れていってもらった。
春男は、自分が想像していたよりも、家での生活が不自由であることを実感し、だんだん塞ぎ込んでいった。
退院した翌日、市役所から訪問調査のために調査員が来た。

調査員は、体の麻痺の有無や、寝返りができるかなど、いろいろ聞いてきたが、春男は調査員の質問に、ゆっくりながらもほぼ自分で答えることができた。

認定調査が終了し、 1)一時判定の結果 2)訪問した調査員が記入した特記事項 3)Aリハビリ病院から主治医意見書が届き、この3つの春男の資料は介護認定審査会にかけられた。
この介護認定審査会は市町村の附属機関として設置され、医療や福祉に関する学識経験者5人を標準として、市町村が条例で定める数で構成される合議体である。

合議体を構成する委員は、非常勤の特別職の地方公務員とされ、任期は2年となっている。
審査の結果、春男は要介護3と判定された。

●第2節 居宅サービス計画の依頼

それから2日後、春男の家に介護保険被保険者証が届いた。
秋子が郵便受けから持ってきて封を開けた。
被保険者証にはこう記されていた。

要介護状態区分等:要介護3
認定年月日:平成28年4月22日
認定の有効期間:平成28年4月1日~平成28年9月30日
ちなみに認定の有効期間は、原則として新規・区分変更の場合は6カ月(設定可能な有効期間の範囲は、3~12カ月である。)
更新の場合は、原則6カ月又は12カ月(設定可能な有効期間の範囲は、3~24カ月である。)

区分支給限度基準額:26931単位
「お父さん、要介護3だって。これって、真ん中の介護度って事かしらね。」
秋子に話し掛けられたが、春男は、「うーん。」と、生返事をした。
春男は塞ぎ込んで、ベッドに寝て過ごすことが多くなっていた。
そんな春男に構わず、明子は続けた。
「介護サービスを利用するためには、居宅介護支援事業所にケアプラン(居宅サービス計画)の作成を依頼してくださいだって。

居宅サービス事業者の名簿も入っているわ。ねぇ、お父さん、どうする?何処がいい?」

そう秋子に言われて、春男は、
「俺はどこでもいいから、お前たちで決めてくれ。」
とそっけなく言った。
春男は、介護サービスを受けることに消極的であった。

娘の秋子から、妻の奈津だけでは介護が大変だから、サービスを受けた方が良いと言われて受けることにしたのだった。
秋子は奈津と相談して、家から一番近くにある、ひまわり居宅介護支援事業所へケアプランを依頼することにした。
さて場面は変わり、ここはひまわり居宅介護支援事業所業所である。
事務所はビルの3階にあり、ゆとりのある広さの中に、面接室として、部屋の隅が、パーテーションで仕切られている。
所長の市川を始め、女性ばかり合計4名の介護支援専門員、ケアマネージャーがいる。

事務所内では所長の市川と、新人ケアマネージャーの横山が事務処理をしており、他の2人は利用者宅への訪問へ出かけていた。
そこへ電話が鳴った。市川が、さっと電話を取った。
「はい、ひまわり居宅介護支援事業所です。」
電話の相手は秋子だった。
「あのー、父のケアプランを依頼したいんですけどー。」
市川はテキパキと電話に応対し、途中で横山に、
「午後、空いてる?3時頃。」
横山が空いていると答えると、
「では、今日の3時に事務所でお待ちしています。」
と答え、電話を切った。
横山は、(あー、新規のケアプランの依頼だな。担当は私か。)と思った。
市川は横山に、
「横山さん、あなた、担当件数が20件で一番少ないから、さっきの電話の人の担当をお願いしたいんだけど、いいわよね。」
介護支援専門員の数は、利用者35人に対して1人を標準とし、その端数を増す毎に、1人増員しなければならない。
「山田春男さんという方で、3丁目の住所だから、ご近所に住んでる方よ。今日の午後3時に、奥さんと娘さんが事務所に相談にいらっしゃるからよろしくね。」
「はい、わかりました。」
横山は、突然入った相談面接に、軽い緊張と、どんな利用者様だろうという期待とやる気が混ざった複雑な感情を覚えた。
そこで市川は、独り言のように言った。
「基本的に居宅介護支援事業者は、ケアプランの依頼(サービス提供の申し込み)があったら、正当な理由がない限り断れないものね。
他の事業者は人手が足りなくて、新規の申し込みを断ってるって聞いてるわ。」

さて、午後3時になると妻奈津と、娘の秋子が事務所にやってきた。
市川から紹介された横山は、面談室へ2人を案内した。
ここからが、いわゆる「インテーク」である。

ここで横山は、なるべく相手が話しやすい受容的態度と雰囲気を心がけて、奈津と秋子の話を聞いた。
奈津と秋子は、春男がリハビリ病院を退院して、2週間ぐらい経ったこと。
病院ではリハビリを積極的にやっていた春男が、家に帰ってきてから寝ていることが多くなってしまい、このままだと前より体の状態が悪くなってしまうので、リハビリをやって欲しい。
病院で使っていたような介護ベッドと、外へ連れ出したいので、車椅子のレンタル、ポータブルトイレの購入を希望していることを話した。

横山は家族の話を傾聴し、ニーズを把握した上で、ケアプラン作成依頼の意思を確認して、次の日に山田宅を訪問し、春男本人の意思を確認して契約をすることにした。
新規のケースが開始されると、その時から介護支援サービスの記録を残さなければならないので、フェイスシートと、今日の面接の内容を記録した。

翌日、ひまわり居宅介護支援事業所で、朝のミーティングが行われていた。
新規のケアプラン(居宅サービス計画の依頼)や、ケースの終了(契約の終了)問題事例などの報告をして、お互いの状況や問題を共有している。
ベテランのケアマネージャー渡辺から、1人暮らしをしていて認知症が進行していたIさんが、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の定員に空きができたので、1週間後に入所することが決定したという報告があった。
利用者が施設入所する場合は、その時点で契約は終了となる。

次に横山から新規の依頼があったとして、山田春男のケースが報告された。
所長の市川が
「このケースの場合、早急に介護サービスの導入が必要ね。リハビリ病院から退院した時よりもADLが下がっている可能性があるわ。」と言った。
その事は横山自身も感じていた。

今日、山田春男、本人に会って、ADLやご本人のニーズをよく聞き取ろうと思っていた。
ミーティングが終わると横山は山田家に訪問するための準備を始めた。
ひまわり居宅介護支援事業所が、山田さんに居宅介護支援サービスを提供する上での契約書、個人情報保護法に関する同意書、居宅サービス計画作成依頼届出書、課題分析票、
介護支援専門員証、ちなみにこれは有効期間は5年、介護支援専門員更新研修を修了することで更新が可能。
またB市が作成した介護保険のパンフレットを用意した。
そして、初回訪問をする時は必ず事前に確認していることがある。

それは介護支援専門員としての、基本姿勢と倫理を書いた、横山独自のメモだった。
利用者の中には、いろんな人がいる。
好印象の利用者もいれば、そうでない利用者もいる。
なかなか打ち解けて話をしてくれない利用者もいる。
そういう時に自分の先入観や、印象、偏見に惑わされず、どんなタイプの人にも公平中立な態度を貫くこと。
自己主張の少ない人からのニーズを引き出し利用者の人権を尊重し、利用者の主体性を引き出せるよう配慮し、自己決定を促し、それを尊重する姿勢である。
そしてもう一つ介護支援専門員としての行動指針ともいえる基本視点の確認だ。
一つは、自立支援である。
利用者が自分の意思で、自分らしく地域の中で暮らせるよう支援すること。
そして、その自立した生活と、自立した生活を実現するために具体的に支援をすることである。
また、ノーマライゼーション、クオリティオブライフ、生涯発達の視点も忘れてはならない。
日々の仕事に忙殺されていると見落としがちな事だが、横山は常に初心に返る事で、ケアマネージャーとして常に自分が提供できる最大限の支援を心がけようとしていた。

●第3節 山田宅を訪問する

横山は自転車で山田宅を訪れた。自転車で10分ぐらいの距離にある山田宅は、駅から比較的近いわりには静かな住宅街の一角にあった。山田という表札がかけられたその家は、庭付きのこぢんまりした一戸建てだった。老夫婦2人暮らしであると、大抵は庭が荒れていたり、家の周りは落ち葉がたまっていることが多いものだが、山田宅はきれいになっていた。
約束の時間の10分前であったが、横山はインターホンを押した。すぐに秋子が出迎えてくれた。

玄関に入ると、奈津が来てあいさつを交わした。玄関の上がりかまちが少し高めなのが気になった。
家の中に入ると、微かにコーヒーのよい香りがした。部屋の様子は比較的きれいに整頓されていた。掃除も目立つところはしてある様子だが、部屋の隅にはほこりがたまっていた。
玄関から居間に入り、その隣に和室があり、そこが春男の寝室だった。
春男は寝間着からポロシャツ姿に着替えて、いすに座っていた。

「山田さん、こんにちは。ケアマネージャーの横山です。よろしくお願いします」と言って名刺を春男に差し出した。
春男は「こちらこそ、よろしくお願いします。」 と、ていねいに頭を下げた。
春男は「ケアマネージャーと横文字で言われるとよく分からないのだが、何をするのかね。」
と質問してきた。

横山は携帯していた介護支援専門員証を見せて、ケアマネージャー=介護支援専門員が行うサービスの内容を説明した。
まず春男自身の心身の状況、ニーズを把握し、課題分析を行い、居宅サービス計画原案を作成する。その後、本人、家族、サービス事業者など関係者に集まってもらい、具体的にどのようなサービスが必要かを話し合う会議、サービス担当者会議を開き、そこで本人の同意を得て、居宅サービス計画を完成させ、計画書を交付し、サービスが開始されることを説明した。
春男は「ふん、ふん」と聞いていたが、「サービスはどんなものがあるのかね」と聞いてきた。

そこで横山は、B市が作成した介護保険のパンフレットを出し、パンフレットを見てもらいながら、訪問看護、訪問入浴介護、訪問介護、通所リハビリテーション、福祉用具貸与、特定福祉用具販売などの居宅サービスについて説明した。
春男は「ふん、ふん」と聞いていたが、突然こう言い出した。
「ところであんたは、子どもがいるのかね。」

急に話が飛んだので、横山は内心驚いたが、落ち着いた様子で
「はい、5歳の女の子がいます。なかなか言うことを聞いてくれなくて困ってます。」
と笑いながら答えた。
すると春男は顔が穏やかになり、
「そうかね。5歳の女の子がいるのかね。実は私は子どもが好きでね、うちの孫は男の子ばかりだから、女の子はかわいいだろうね。」
そう言って、春男は現役時代、B市の市役所の職員で、教育委員会や保健福祉課の保育所担当など、教育関係の仕事をしていたことを話してくれた。

奈津と秋子は、いつになくおしゃべりな春男を見て、顔を見合わせて微笑んだ。
秋子が 「お父さん、自分の話はそれくらいにして、そろそろ横山さんの話も聞いてあげて」
と言った。
春男は「ああ、そうか。じゃあ、あんたの話を聞こうか」と言った。
そこで横山は、契約書を示して、事務所の運営規定の概要や、重要事項の説明をし、ひまわり居宅介護支援事業所と契約することに同意することを確認、署名、捺印をもらった。

次に、介護サービスの費用に関する説明を行った。利用者の自己負担は原則1割だが、居宅サービス計画作成の費用である居宅介護サービス計画費は保険から10割丸々給付されるので、自己負担がないことを説明した。
次に、個人情報保護法に関する説明を行い、サービス事業者間において、必要最低限の個人情報をやりとりすることについて、同意を得た。
次に、介護保険被保険者証を見せてもらい、要介護3であることを確認した。
また、居宅サービス計画作成依頼届出書に記入してもらった。
次に、課題分析に必要な情報を聞き取っていった。必要なことを聞き漏らさないように、時々課題分析票をちらりと見ながら、春男の残存能力を含めた身体的、心理的な状況、すでに利用しているサービス、生活環境などを聞きながら、春男の実情を把握していった。

横山は他の社会資源の使用状況を確認すべく、おむつの使用について聞くと、秋子が困ったようにこう言った。
「今はリハビリパンツと尿取りパッドを使っているんですけど、結構高くてお金がかかるのよね」。
それを聞いて横山は、「それなら市役所の窓口で紙おむつの支給の申請をしてください。配送料のみの500円で、1カ月に1回、不足のない程度の枚数を支給してくれますよ。」

秋子は「ええ? そうなの? 知らなかったわ。じゃあ早速明日、市役所へ行って申請してくるわ。ついでに居宅サービス計画作成依頼届出書も被保険者証をそえて出してくるわ」と言った。
次に春男のニーズを把握すべく、いろいろと話を聞いた。

春男は家に帰ってから、人の手を借りなければトイレに行けないなど、自分が思っていたよりも不自由な生活に落胆していることや、不自由な体になってから、外へ出かけたくなくなってしまったこと、このままではいけないと思い、リハビリをしたいと思っていること、家に戻ってからは清拭のみなので、入浴したい、湯船につかりたいという希望があることを話してくれた。
話題が、春男の食生活におよんだ時、春男がコーヒー好きであることが分かった。
春男の楽しみは、朝、妻の奈津が淹れてくれるコーヒーを飲むことだという。

「わしは朝、ばあさんが淹れてくれるコーヒーを飲むことが楽しみなんだよ。ばあさんは若い時から、コーヒーを淹れるのがうまくてな。このコーヒーを飲むと、何か満ち足りた幸せな気持ちになるんだよ。入院中は、ばあさんのコーヒーが飲みたくてしょうがなかった。病気になって、コーヒーを飲むのはよくないと医者に言われたが、1日1杯だけ認めてもらったんだよ。退院した翌日の朝、ばあさんの淹れてくれたコーヒーを飲んだ時、生きて家に帰れてこれたことを実感したよ。本当に生きていてよかった。」  と、しみじみと春男は語った。

また病気のことについても、春男と家族から話を聞き、Aリハビリ病院から渡されたという看護サマリーを見せてもらった。
病名は「脳梗塞後遺症左片麻痺」、「高血圧症」、「不整脈」、「便秘」とある。リハビリについては意欲的で、ポータブルトイレへ要監視・一部介助で移乗できるレベルであると記してあった。
また、家庭環境など、春男を援助してくれるインフォーマルな支援の状況を聞いた。
娘の秋子は、今は泊まり込みで介護を手伝っているが、介護サービスが入るようになって、落ち着いたら自宅に戻ること、1週間に1回程度は様子を見に来れるとのことであった。

また近所付き合いがあり、隣の家の奥さんが庭掃除を手伝ってくれたり、時々様子を見に来てくれるとのことであった。
春男にはもう1人、息子がいるが、転勤で地方へ行っているので、ほとんど顔を見せることがないとのことであった。
一通り話を終え、横山は
「では明日、ケアプラン、居宅サービス計画の原案をお持ちしますので、また明日伺います」
と言って、春男と家族にあいさつをして、玄関を出た。
見送りに出てくれた秋子がこう言った。

「父があんなにおしゃべりしたのは退院以来初めてなんです。もともと社交的で外へ出るのが好きな人なんですが、病気をしてから元気がなくて。横山さん、どうかよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします」。
横山は笑顔で答えた。

●第4節 居宅サービス計画の作成

横山は事務所へ戻り、課題分析票を使って、課題分析を行った。
「えっと、氏名は山田春男。生年月日、大正13年10月10日。住所、B市C町3丁目。
連絡先・・、家族構成は・・こうだと。収入は共済年金、月30万円。本人家族の希望は・・これこれで、主治医は鈴木クリニックの鈴木先生が訪問診療、往診に入っている。ADLはこうで、IADLはこうで・・、コミュニケーションは意志を他者に伝達できると・・・。」
こんな調子で課題分析を終えると、居宅サービス計画原案の作成に取りかかった。

長期目標と短期目標を決め、どの介護サービスを入れるかを検討した。春男が望んでいる生活は、家で妻の淹れてくれるコーヒーをゆっくり飲める生活。自分のこだわりを大事にした生活である。

在宅で安心して過ごせるように、脳梗塞後遺症、高血圧症などの状態から医学的管理、指導を受けることで、病状を安定させ、安心して過ごせること、その上でリハビリを積極的に行い、室内の移動を不自由なくできるようになり、意欲的な生活を送れること。定期的に入浴をして、身体を清潔に保ち、気持ちよく過ごせること。

介護サービスを入れることで、生活リズムを整え、めりはりのある生活を送ること。本人が介護サービスに慣れてきたら、通所介護、通所リハビリテーションなどを利用して、社会との交流や介護者の負担軽減を図ることなどを目標にした。
ここでは短期目標は省略します。

市川が横山に声をかけた。
「山田さん、どうだった?」
横山は答えた。
「礼儀正しいきちんとした方でした。山田さんの生活の楽しみは、朝、奥さんが淹れてくれる1杯のコーヒーを飲むことなんだそうです。そのコーヒーを飲むと幸せな気持ちになるんですって。」

「そう、1杯のコーヒーか。そういう、その人らしい生活を送ることが継続できるように、支援することが、私たち介護支援専門員の役割よね。」
と市川は誇らしげに言った。
翌日、横山は居宅サービス計画原案を山田宅へ届け、同意を得た。
利用する介護サービスは訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、特殊寝台と車いすのレンタル、ポータブルトイレ・シャワーチェアの購入、(居宅療養管理指導)である。

1カ月のサービス利用料の説明を行い、要介護3の支給限度額、26931単位に収まる点と、自己負担額は費用の1割であること、特定福祉用具購入は1年間で10万円を上限に支給され、この場合も利用者負担は1割であるということを説明し、同意を得た。

鈴木クリニックの鈴木医師が4日後に訪問するとのことで、その日時に合わせてサービス担当者会議を開催する方向で調整することにした。
横山は事務所に戻り、サービス事業者に連絡を取った。その様子を見ていて、所長の市川が声をかけた。

「サービスを依頼する事業所は決まったの?」
「ええ。家族が事務所に相談に来た時から、各事業所に打診はしておきましたから」
と横山は答えた。
「そう、それならいいわ。でも特定の事業所に偏ってサービス提供の依頼をしないように気をつけてね。介護支援専門員は、サービス提供事業者に対しても、中立性が求められているから。渡辺さんには何回か言ってるんだけど、偏ってるのよね。」
と市川は、ぼやいた。
「渡辺さんは完璧主義者だから、渡辺さんのお眼鏡にかなった事業者が少ないんでしょうね。」  と横山は答えた。

●第5節 サービス担当者会議

その4日後、急な提起にもかかわらず、サービス事業者が一堂に山田家に集まり、担当者会議を行った。横山が作成した居宅サービス計画原案をもとに検討がなされた。

初めに本人と家族の希望を出してもらった。本人からは、主に入浴とリハビリの希望が出された。
次に鈴木医師からは、春男の現在の病状、血圧が不安定なので、訪問入浴介護は週1回で様子を見て、それ以外はシャワー浴とすること、服薬をきちんとすることが重要だが、この間、薬の飲み忘れがあったので、服薬管理を、訪問看護師をはじめ、徹底してほしいこと、リハビリは本人の状態を見ながら積極的に行ってほしいとの旨が話された。

訪問看護からは、バイタルや排便の管理、服薬管理、家族への指導を中心に入っていくとのことであった。
訪問リハビリからは、排泄をポータブルトイレで自立して行えることを当面の目標として、今後、室内移動を可能にするため、廊下、トイレ、風呂場に手すりをつけていくことを検討する提案がされた。
訪問介護では、シャワー浴の介助、身体介護を中心に入っていき、ご本人と良好なコミュニケーションを取り、家族の介護負担を軽減していく。
福祉用具事業者からは、玄関の段差解消のためにスロープのレンタルの利用が提案された。また明日、福祉用具の納入が可能であることが報告された。

娘の秋子からは、週2回、定期的に様子を見に来れるということで、介護サービスの入らない曜日を中心に来てもらうことにした。車いすを使ってなるべく春男を外に連れ出したいとも言っていた。
ここで居宅サービス計画の内容が参加者全員で確認された。

春男からは、
「私のために、こんなに人が集まって一生懸命に話し合ってくれて、感謝しています。なんだか元気が出てきました。」
と感激した様子で話してくれた。
妻の奈津も
「最初はこれから一人で主人の介護をしなくてはいけないのかと不安でしたが、こんなにも手伝ってくれる人がいて、心強いです。」
と感想を話してくれた。
サービス担当者会議終了後、横山はすぐに事務所に戻り、サービス担当者会議の決定事項などの要点を文書にまとめた。

● 第6節 居宅サービス計画完成

横山は居宅サービス計画について、サービス担当者会議の内容を踏まえて、利用者本人、家族に説明をして、文書により同意を得て、居宅サービス計画書(サービス利用票とサービス利用票別表を含む)を交付することで、居宅サービス計画を完成させた。
横山は事務所に戻った後、各居宅サービス事業者へ、居宅サービス計画書(サービス提供票とサービス提供票別表を含む)を送った。これにより、山田春男のケースは翌日から介護サービスが入るようになった。

●第7節 モニタリング

2週間後、横山はモニタリングをする目的で、山田宅を訪問した。
ちなみにモニタリングは特段の事情がない限り、少なくとも1カ月に1回、利用者宅を訪問して行わなければならない。
ちょうど訪問リハビリが入っている時間である。春男がポータブルトイレに移乗するリハビリが行われており、ほぼ自力で安全に移れるようになっていた。理学療法士とにこやかに談笑しながらリハビリに取り組む春男を見て、横山は安心した。

リハビリが終了した後、春男と妻・奈津に、介護サービスが入っている時の様子や、希望などを聞いた。春男から、ヘルパーは男性と女性が交替で入っているが、力があることと、女性だと恥ずかしいという理由で、男性ヘルパーだけに入ってほしいという希望が出された。これについては、訪問介護事業者と調整することにした。

2人から話を聞いたところ、おおむね順調に介護サービスが入っており、利用者本人・家族とも満足しているとのことだった。
横山は事務所に戻り、モニタリングの結果を記録した。とりあえず順調にことが運んでいる様子なので、ほっと胸をなで下ろした。今後、モニタリングを続けていく中で、利用者の生活課題に変化があったり、新たな生活課題が発生することもあるだろう。そうした場合は、再課題分析をして、居宅サービス計画を作成し直すことになる。これを繰り返していくことが、介護支援専門員の仕事である。

●第8節 給付管理業務

翌月になり、1日から10日までは介護支援専門員にとっては忙しい時期である。先月1カ月の、実際に行われた介護サービスの利用状況を、利用者とサービス事業者に確認する。例えば本人の都合でヘルパーを1回お休みしたなど、実際は計画どおりに行かないことが多いのである。

給付管理票を作成し、国民健康保険団体連合会に10日までに提出しなければならない。これを給付管理業務と言う。
横山は他の介護支援専門員よりも担当件数が少ないので、給付管理業務を早めに終わらせた。事務所全体では、10日の朝に国民健康保険団体連合会に給付管理票と居宅介護サービス計画費の請求書を提出して、一連の仕事が完了した。
市川が、「ああ、今月も無事、国保連への請求が終わったわ。今日はみんなでゆっくりランチにでも行こうか」
と、ほかの介護支援専門員に声をかけた。

そこで真っ先に横山が
「賛成!所長がおごりで。」 と叫んだ。
事務所内にどっと笑いが起こった。
終わり。

なお、このストーリーはフィクションです。
ここでお断りしておきますが、実際の現場でのやりとりと、このストーリーの内容とは、異なる場合があります。例えばこの山田さんのケースの場合、介護保険の要介護認定の申請をした時点で、居宅介護支援事業者に暫定ケアプランの作成を依頼して、認定が下りる前でも介護サービスを利用できる方法があります。

介護サービスは、申請時にさかのぼって利用することが可能であり、要するに認定有効期間は申請日からになります。現場ではむしろこうしたケースには、暫定ケアプランを作成して早めに介護サービスを利用してもらうパターンのほうが多いでしょう。しかしこのストーリーは試験対策用に作成したものですので、あえて要介護認定が下りてからケアプランを作成することにしてありますので、ご了承ください。

以上

山口あき子
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